少し眠いが待ち合わせより少し早い時間に向かう。
 遅刻は厳禁、遅刻は厳禁。

「早いですね」

 すると橘さんは、既にそこにいた。
 俺は、うつむいたまま地面に言葉を放つ。

「あのすみません……」

 聞き取れるか聞き取れないかそんな声だった。
 気持ち悪がられるかな……
 それに、女を待たせる男なんて最低だ。
 こんなこと、幼稚園児でもわかる。

「あやまらなくてもいいんですよ。
 私、待つの好きなんです。
 変わっているって、よく言われているんですけど……
 私ね、待っている間のいろんなことを妄想して遊ぶの楽しいんです」
 
「妄想?」

「あ、ごめんなさい」

 俺の問いに橘さんの表情が暗くなる。

「妄想女って引きますよね?」

「え?気にはならないですよ。
 うん、俺もよく妄想するし」

「本当ですか?」

「うん」

 それを聞い橘さんの表情がパッと明るくなる。

「よーし!妄想部隊発進だー」

 橘さんはそう言って俺の手を握りしめる。
 そして、俺はこのとき初めての大人の階段をまた一歩登った。
 女の子と手を繋ぐ。
 モテない男が、一度でも夢見た世界。
 それは、女の子との腕組、手つなぎ、ひざまくら、耳かき………その他いっぱい。
 童貞会伝説の一歩。手つなぎを俺は経験している。
 千のデートは、タッチから……
 
 ――私信、かみさまこんなチャンスをくださりありがとうございました――
        俺、無事に大人に一歩近づきました……

 本当にありがとう。
 俺は、そう願い太陽を見た。

「ハクション!」

 くしゃみが出た、そうだった俺は太陽の光を見るとくしゃみが出るんだった。
 無念なり……