男と女が出会えば恋に落ちるなんて、そんなありきたりな恋物語、クソくらえだったのに。

 どうして、こうなってしまうんだろう。

 私と稲葉が一緒の自転車に乗っていただけで、水無瀬たちもそう思った。

 きっと、青山もそう思っただろうし、なぜか今、舞もそう思っている。

 勘違いなのに。


「わたし、全部知ってるんだからね!」

「違うよ、舞……」


 どうして、私と稲葉は友達じゃいけないんだろう。

 どうして私は舞を、好きでいちゃいけないんだろう。


「違わない! この間だって、愛ちゃんに声かけてきてたじゃん。帰りも一緒だったんでしょ? 放課後、教室で一緒に喋ってたって、水谷先生だってエレベーターで二人一緒なの見たって言ってたもん!」


 私と稲葉を繋いでいたのは確かに恋だけれど、それはお互いへの気持じゃなかった。

 同性に恋をしたっていうことが、私と稲葉の絆だった。


「なんで黙ってたの? 友達なのに! 友達だって思ってたのに!」


 泣いてしまいたくて堪らないのに、涙が出ない。

 声さえ詰まる。

 ぎゅっと、制服のリボンを握りしめる。

 今、口を開いたら言ってしまいそう。

 私と稲葉が付き合っていないこと、私の本当に好きな人のこと。

 舞とのこれからを思うなら、稲葉と付き合っていることにしてしまった方がいいのかもしれない。

 そうすればきっと私の気持ちはバレないから。

 でも、これからなんて、もう、ない。