「いい。自分で渡すから」

「稲葉ぁ!」


 そんな表情から一変して、花が咲いたようになる。

 今度は、嬉し泣きでもしそうな勢いだ。

 なんで篠塚がこんな必死になるんだろう。

 理由はわからないけれど、篠塚のこの必死さに動かされたところがあるのは事実で、少し嬉しかった。

 篠塚のおかげで、青山にチョコレートを渡す決心がついた。

 自分一人じゃ、絶対にこんなことしようと思わなかっただろう。

 これがいいことなのか悪いことはわからないけど、いいじゃないか。

 俺の青山への気持ちがバレないんなら、俺だってバレンタインデーの浮ついた空気を楽しんでも。

 だって、青山が好きなのは俺の正直な気持ちなんだ。

 好きになった相手が、たまたま同性だったってだけだ。


「でも、俺からだとは絶対言わねぇからな! 頼まれたって言って渡す」

「うん。それでいいよ!」


 俺は、篠塚からチョコレートを受け取った。