ある寒い日のこと。


私は庭の掃除をしていた。

木枯らしが吹く。


寒い、手が痛い。


息が真っ白だ。

雪まで降り積もっていた。


「ごめんくださーい!!」


声のする方へ振り向くと見知った女の人が立っていた。


「ミツさんじゃないですか!!」

「あれ、もしかして雪ちゃん?」


その人は私を見ると綺麗に笑った。

その笑い方が宗ちゃんにそっくりで。


まぁ、そりゃあそうか。

姉弟だもんね。


「そうです、お久しぶりですね」


最後に会ったのはいつだったっけ。

長い間、顔を合わせていなかった。


「ふふっ、暫く見ない間に綺麗になっちゃって。ちょっとトシちゃんに似てきたんじゃない?」

「ありがとうございます。ミツさん、それは褒め言葉なのでしょうか」


最後にあまり嬉しくない言葉が聞こえたんですけど。


「あら、性格は似ちゃあダメだけどね。でも顔は申し分ないでしょう?」


無邪気に笑うミツさん。

この人、黙っていれば言い寄られるのに。

笑顔が悪戯めいてて怖いです。


「それは言えてますね。時に、今日は何用で?」

「ああ、勝っちゃんに少し話があってきたのよ」

「ああ、嶋崎先生なら先程出稽古に出て行かれましたよ。トシちゃんも連れて」

「あら間が悪かったみたいね。それならまた今度お邪魔するわ、ありがとう」


快活な性格は変わっていない様でにかっと笑うと、ミツさんは踵を返そうとした。


「姉上……………?」

其処へ幼い声が耳に届いた。

洗濯を済ませてきたであろう宗ちゃんが呼び止める。

不安げに揺れる瞳。


その手から持っていた桶がカランッと落ちた。


「姉上!!」


嬉しそうにミツさんに飛びつく宗ちゃん。

だけどミツさんはその手を振り払った。

だけど宗ちゃんは続ける。


「僕のこと迎えに来てくれたの?!」


嬉しそうに、楽しそうに。


「ねぇ、姉上、いつものお団子また作ってくれる?」


にこにこと上機嫌に話す宗ちゃんを私は見ていられなくなった。


“口減らし”


そんな言葉が頭を過る。

だけど幼い宗ちゃんにはわかるはずもなかった。


「僕みたらしがいいなぁ」

「宗次郎」


今まで黙っていたミツさんが強い声で宗ちゃんを呼ぶ。