「ねえ、」


今日もきみは、わたしにそう呼びかける。

やっぱり名前は呼んでくれなかった。



「なあに、コウくん」


だからわたしもいつもどおり、彼の名前を呼ぶその声に、ほんの少しの嫌味と対抗心を織り交ぜた。


だけどやっぱり今日も、きみはそんなことお構いなし。



「古典のノート見してくれない? さっきの授業、寝ちゃっててノートとれなかったんだよね」


「寝ちゃってて、じゃないよ……コウくんいつもそればっかし」


「だめ?」



こてん、とかわいらしく首を傾げ、上目にそう言う彼はあくまでも無意識なのだ。


女子力皆無のわたしには到底できっこないモテ技を、彼はこうも自然としてみせる。



……そんなモテ技つかわなくても、その綺麗な容姿でじゅうぶんモテているだろうに。


きっと彼は、モテるために生まれてきたに違いない。うん、間違いない。