やっぱり今日も残業中。
ごめんね、を繰り返す、美しい先輩の咲良さんを思い出しつつ肩を竦めた。

いや、あれはしょうがないかな。

本来だったら咲良さんの仕事だけれど、途中クライアントから連絡があって急遽の変更。
変更箇所を営業と企画と擦り合わせて見直して、それでも納期に間に合わないと直談判に向かった。
車で4時間もかかる、クライアントの会社に。

残されたのは、変更に追われる部署の皆と、明日提出予定の山のような書類。
それを聞いて蜘蛛の子を散らしたように逃げ出した同僚たち。

うん。
まぁ、丁度そこに、判子をもらいに行った私も私か。

どーせ、家に帰っても独りだし?
特に予定もないから、別にいいんだけどね。

……さすがに残業馴れしてきたかな。

目がパシパシしてきたから目薬を差すと、近くでビニール袋のガサガサという音が聞こえた。

「お疲れ様」

そう言って、無表情でミルクティーの缶をデスクに置くと、他にも残っている同僚たちに飲み物を配って歩く倉坂さん。

「あれ。倉坂先輩。会議に出てたんじゃ?」

驚く同僚をチラリと見てジャケットを脱ぐと、それを椅子にかけてから頷いた。

「出席してましたよ。終わりましたので、手伝いに来ました」

椅子に座ると袖のボタンを外して、腕捲りを始めた倉坂さん。

「ああ、なら、山根を手伝ってやってください。そっち、一人で書類作成してるんで」

その言葉に、倉坂さんの視線が私に向いた。

「半分こちらに回してもらえますか?」

「ええと。営業の書類も混じってて……」

「咲良の書類がほとんどでしょう? それなら企画と合同ですから、だいたいは解ります」

ラッキー!
なんていい人なんだ、倉坂さん。

正直、ちょっと帰った同僚たちに怨みの念を飛ばしちゃいそうな量で困っていたのです!