「山根さん。これもお願い」

牧野さんに渡されたのは緑のファイル。

「はい。何時までですか?」

「倉坂君に聞いて」

「…………」

ファイルを持って黙りこんだ私に、耳に赤ペン挟めた牧野さんが顔を上げた。

「なんで困った顔をしてるの。仲良いでしょう?」

悪くはないけれど。

牧野さんは、遠くでニヤニヤしてる咲良さんと、モニターを真剣に見ている倉坂さんを交互に見た。

「ああ。相談する人選間違ったわね、山根さん。咲良じゃ、倉坂君の肩持つだけだわね」

「……ですか」

「あの子達より先輩面してますからね、私は。たぶん……大丈夫よ。倉坂君は“たまにしか”公私混同しないから。今はね」

今は……ですか。

「聞いてきまぁす」

仕事は仕事だ。

ファイルを片手に、倉坂さんのところに行くと、何となく無表情が疲れてる?

「倉坂さん。すみません」

「はい」

視線も上げない倉坂さんに、ファイルを持ち直す。

「牧野さんに渡された……この書類」

「15時までにお願いします」

……見もしないでよく解ったな。

「お忙しそうですね」

「そうですね。後で充電させていただけますか?」

「お断りさせて頂きます」

何となく断ってデスクに戻ると、牧野さんがデスクに突っ伏して笑っていた。


「咲良が面白がる訳だわ。なんなの貴女たち」

知りませんよ。
一緒にしないで下さいよ、一緒に。

デスクに座って、ファイルの書類を開いて、ページをパラパラと確認中。

だいたい、最近は忙しくなってきて、すれ違い様にからかってくるだけだし。

あんな感じならサラリとかわせる。

それくらいは出来る。

対応に困るのは、倉坂さんの目が楽しそうにしている時だ。

楽しそうにしている時は、倉坂さんに余裕があって、全力でからかわれる。

たぶん、あれはからかってる。

絶対にからかってる。