17時15分。

今日は定時に終われそう。
咲良さんから受け取ったファイルを開き、こっそりのど飴を口の中で転がす。

会社のフロアってどうしてこんなに乾燥するんだろう。

加湿器はガンガンかかってるにも関わらず、この広さに対して3台程度じゃ足りないのよね。

絶対に足りない。

かと言え、まさか濡れタオル干すわけにもいかないし、個人的に小型の加湿器でも買おうかな。

……残業手当ても増えたしね。

新卒の頃とは比べ物にならないくらい、残業手当ては増えてるけどね。

貯金はしてるけど、なんて言うか……
世の中上手くいかない。

お金はあっても暇がないし。
暇な時間があったら、お金はないし。

一気に稼いでゆっくりするのが一番かもね。

「温泉行きたいなぁ」

「いいわねぇ。私も行きたいわぁ」

振り替えると、デスクの書類に埋没しそうな咲良さん。


「…………」


しまった!!


「いいところで振り返ってくれたわねぇ。山根ちゃん。これとこれ、データ差し替えて、こっちのファイルの打ち込みお願い」

艶然と微笑む女神がご降臨。

ああ、この微妙な時間帯に、咲良さんを振り返ってはいけないのに……。


咲良さんの後ろで、すでに残業決定の仲間たちがニヤニヤと手招きしている。

あー。もう。
はい、もう。

やりますよ。
やらせていただきますよ。
やりますとも。

やるっつ~の!!

無言でファイルを受けとると、咲良さんはふんわり微笑んだ。