「……スースー」


規則正しい寝息が聞こえてきた


頬にかかった髪を指で払い、翼の寝顔を眺める


熱で火照った顔、長い睫、濡れた唇が色気を醸し出していた


「……」


パッと視線を逸らす


今戻ったら数学教師の火の粉が降りかかってきそうだから保健室にいよう


「……ん」


「!」


微かな呻き声で身体が跳ねた


「……う……っく」


目尻から涙が流れた


「……寂、しい…よ。 置いてか、ないで」


何かを掴もうと上に手を伸ばして空をさまよう


「……"お母さん"」


「!」


とっさに空をさまよう手を掴んだ


「お母…さん…お母、さん…おかあさ…ん」


何回もうわごとのように繰り返す


翼の家事情は分からない


だけど、こんなにも弱々しい姿を見ていられなかった


目を離したら壊れてしまいそうで


そっと翼を布団の上から抱きしめた