「何?」


 眼光鋭い視線が斜め下からギロッと私を睨みつける。
 普段より少し低くなった声は、聞く人によっては背筋が寒くなる程に冷たいのだそうだ。けれど私は困ったことにそれに慣れすぎて、既に恐怖を感じなくなってしまった。


「この間あれほど確認するように言ったよな?」


「確認はしたんですが引っ張ってきた数字をそもそも間違っていたようです」


「宮原……ちょっと来い」


 顔を顰めた緒方課長が立ち上がって会議室の方角を示す。
 いつもの説教部屋。課長は部下を叱る時に、周りへの配慮か会議室を使う。とは言っても私がしょっちゅうそこで彼の雷を食らっている事なんか周知の事実だけれど。


 課長の後を追おうとすると、同期の美樹と後輩の徳ちゃんが寄ってきた。


「ちょっと陽菜。それ田中君のミスでしょう?何であんたが叱られてんのよ」


 そう言って美樹は自分のデスクでモニターと格闘している田中君をちらりと見る。データの修正に必死な彼は先程の課長の怒鳴り声も美樹の視線も全く気づいていない。