生ぬるい風が、ゆっくりと頬を撫でる。

制服の衣替えが始まった途端に気温が上がった気がする。

というのは間違いで、今日が一段と暑く感じるのは、ワイシャツの胸ポケットに入っている一通の手紙のせいだ。


清潔感溢れる真っ白な封筒。
手紙自体も、模様一つない清楚な便箋。



『急にすみません。昼休み、屋上に来てもらえませんか。大切な話があります。嫌だったら、無理して来てくれなくても構いません』



文字もきれいに整っている。

実は女からの手紙ではないかと疑ってしまうほど。

そんな疑心を抱いてしまうのにも訳がある。

学年もクラスも、名前すらも書いていないのだ。

これでは相手の検討もつかない。




「暑い……」




昼休みに入り十分が経とうとしているが、扉が開く気配はない。


悪戯なのではないか。そう考えるとずいぶん気が楽になった。

一つため息をついて、コンクリートの地面を見つめた。


幼なじみである侑が、いつものように人を小馬鹿にした笑みを浮かべて現れてくれれば、いつもの調子に戻れそうなのだが。



やがて、昼休みに入り二十分が経とうとしている。

じゅうぶん待ったことだし、戻ろう。

悪戯だったのだと心に言い聞かせ、踵を返す。


それと動じに、ぎこちない音を立てながら、鉄製の重たい扉が、――開いた。





「す、すみません。遅れました」