「えぇ⁈ 彼氏が出来た⁈ 」

「ちょ、ちょっと琴乃、声が大きいって」


お酒の場である店内は割とガヤガヤした雰囲気ではある。だとしても、そのガヤガヤを更に上回る声のボリュームで彼女は言った。というか、声を上げた。

しかも続いて「やったじゃん!」と、向かい側に座っていたはずの彼女はそりゃあもう前のめりに、もうテーブルを乗り越えてくるんじゃないかってくらいの勢いで立ち上がって、喜びやら驚きやらを全面に押し出してくる。


…嫌な訳じゃない。

嫌な訳じゃないけど…もう少し納めてくれると助かる。周りの視線が痛いってば。


「いつ⁈ いつから付き合ってるの⁈ 」

「え…えっと…あの日から、かな…?」

「え、あの日…ってまさかあの、魔の29歳誕生日⁈ 」

「……はい」


魔の29歳誕生日。

そんな余計なもんを頭につけた覚えはなかったけど、それをこんなにもすんなり受け入れられちゃう、むしろその方がしっくり来ちゃう悲しい現実。