「それが、この間の話の続きですか? 本当に、作り話のような、不思議なお話ですねぇ」

 年若い編集者は、やはり半信半疑といった体で、それでも律儀に頷いた。

「そうだ、先生。この話、次回の作品にしてみませんか? なかなかいい話だと思いますよ。奥が深くて」

 目の前の彼はこの話が私の創作であると思っているらしい。そう思われても不思議はない。大体私とて、あれは夢だったのではないかと思う日もある。しかし、ズボンを汚して帰り、妻に文句を言われたのは確かな現実。

 ともあれ、私は今まだ死なずにいる。という事は、あの少年は生を選び取ってくれたのだろうか。それとも、あれは過去の私なのではなく、少年が言っ たようにただの赤の他人だったのだろうか。今となっては知りようがないのだが、私にはやはりあれは昔の私であったように思えてならない。

 そして数十年の後、先日の少年は年老いた姿で、私がしたようにあの場所で、若き日の自分に声をかけるのだ。




「少年――下に何が見えるかね?」




<完>