ケータイ小説 野いちご

困惑の予言者


「自分ですら掴みかねる胸中を他人が分かるとは僕は思わない。実際、あなたには何も分かっていないと思うし、僕もあなたの何をも知らない。僕は自分 以外の人間については何も知らないし分からない。また、分かろうとも知ろうとも思わない。あなたは僕とは赤の他人で、あなたに話してあげる言葉は何も持っ ていない。持ちたいとも持とうとも思わない。残念ですが、接点がありません。僕に話しかけるのはやめて欲しい」

 あろう事か、少年は至って冷静に、まくし立てるでもなくただ訥々とそれらの言葉を綴ったのだ。

「……君は……死のうと、しているのか?」

 動揺した私の言葉も少年のそれと同じように、私の前に現れたあの人のものと既に異なっていた。

「さっきの僕の言葉をなんと、聞いたのですか? 僕に話しかけるのはやめてください。出来得ればこの場から消えて欲しいと言うところだけど、ここは 公共の場で、僕にそう言う権利はないから、あなたがここにいるのは自由だ。だけど、僕は誰とも話す気はない。僕の権利を尊重して下さい」

 これは、あの場面の再現ではないのか? この少年は在りし日の私で、今の私はあの時、私に声をかけてきた初老の男性ではないのか?

 思えば荒唐無稽な話である。この状況が、物書きである私のただの想像力の賜物ではないとどうして言い切れるのか。もしかすると、私は何の関係もない少年に話しかけるお節介--どころか、迷惑きわまりない老人なのだろうか。

 しかし、私の脳裏には今も焼き付いているのだ。

 あの日の彼は、黒いタートルネックの薄手のセーターにダークカラーのカジュアルなジャケットを羽織っていた。あの日の私は、今の少年のように青地 に濃紺と緑のチェックのシャツに茶色いダッフルコートを着ていた。シャツの一番上のボタンが取れて失われているところまでも、同じ……。さすがに、そこま での偶然はあり得ないだろう。何より、薄闇に見える少年の顔は在りし日の私の顔にそっくりな気がするのだ。

 とすれば、これは、確かに若い頃の私なのだ。

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