ケータイ小説 野いちご

困惑の予言者


「何だか、作り話のような、不思議なお話ですねえ」

 年若い編集者は、半信半疑といった体で、それでも律儀に頷いた。

 夢も、希望も持った顔だ。人生これからだと、全身で語っているような若者だ。誰にも話したことのない、この嘘のような出来事を、不意に話してみようと思ったのもそのせいかもしれない。

 目の前の彼は、おそらくこれは私の創作であると思ったに違いない。文章で身を立てている私のことだから、そう思うのも無理はない。大体が出来すぎた話だ。創作にしてもご都合主義すぎる。私が編集なら、本には載せまい。


 遠い昔のことだった。いつのことだったか、正確に思い出す事もできないような、若い日の話だ。あれから長い年月が過ぎ、私は今もここにいる。

 地位も得た。名声も得た。どれも手に入れたのは、全て晩年のことだ。

 ――あの人は一体誰だったのだろう。それは今も心に残る疑問だった。

 おそらく、知ることはないのだろう、この世にいる内は決して。


 原稿を受け取って急ぎ足に戻っていく編集者の背中を見送って、私はぶらりと散歩に出て、辺りをうろつく。

 薄暗くなってきた中にぽつりぽつりと家の灯りが点っていく、その様を見ているのが好きだった。閑静な住宅街が一望できる高い土地に居を構えた時は、その俗っぽさに自分でも可笑しさをおぼえたものだ。

 何かを見下ろすという行為には、人間のみならず、いかな動物でも優越感を覚えるに違いない。出世する、夢を叶える、その他諸々のいわゆる成功するの事に高みへ上がるという表現が使われるのも道理だ。

 今、私はその高みにいる。贅を凝らしたテーラーメイドの衣類、磨き上げられたブランド物の靴、ポケットに納まるのは外国製の葉巻、高級住宅地に構えた豪邸。金で買える些末な事から、円満な家庭まで、手に入れたものは枚挙にいとまがない。

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