先輩から電話が来たのは数日後の事だった。
私は履歴書を初めて買って必要事項を書いたが、自分の履歴書を眺めて、何と空白の多いことか!
少し薄っぺらい自分に溜め息が出た。


私は中学を卒業して高校入学までの期間中バイトをしていた。
そこは履歴書なんて必要なかった。


元々技術が好きで、モノ作りが性に合っていた私は整備工場の雑用をしていた。
オイルの臭いも嫌いじゃなかった。
油にまみれて、錆び付いた部品をピカピカに磨いて組み立てて行く、そして1つの形になっていくのが嬉しかった。



履歴書にはそれは書かなかった。


すかすかの履歴書を持って面接のために先輩のバイト先に行った。
先輩は居なかったが、私と変わらない年の男の子が対応してくれて、店長らしき人が私に向かって言った。


『従業員用の出入り口の所に来てください。』

私は『はい。』と答え従業員用の出入り口に向かった。


通用口には警備員が居て、私を頭の先から足の先までジロジロ見ていたので、私から口を開いた。
『面接を受けに来て、ここで待つように言われたので、どうすれば良いですか?』

すると警備員は私に紙を渡しながら事務的に言った。
『ここに必要事項を書いて。』

私は受けとるとスラスラ書いて警備員に渡した。
警備員は書類には目もくれず、小さなプラスチックの名札を措いていった。
『これを着けてそこで待っていてください。』


私は胸に名札を着けていると、さっきの店長らしき人が小走りできた。

『やぁ!待たせてゴメン。ちょっと店が混んでいて手が離せなかったんだ。』
私の胸の名札を見て慌てて付け加えた。
『手続きしてくれていたんだね。ありがとう。じゃあ面接をするからこっちに来てくれる?』

私はその人の後ろに付いて店の裏の薄暗い道を通ってエレベーターに乗り最上階の従業員用の食堂に連れていった。


飲み物を2つ手に持ったその人は、食堂の隅のテーブルに私を座らすと、向かいに座って優しい口調で言った。

『改めまして。店長の山田です。早速だけど、履歴書を渡してもらえるかな?』

私は鞄から履歴書を取り出し、店長に渡した。
店長はそれを受け取ると、私に飲み物を勧めてから履歴書を読み始めた。
私はその薄っぺらな履歴書を読まれている間、飲み物を飲んだが、味なんて分からなかった。