この世界の食事は、私がいた世界となんら変わらないものだった。
そのことに、少しホッと一息つく。
わけわからない料理が出て食べられる気がしないから。


それに、血を飲んで生きている魔王も、同じようにこういう食事もしているらしい。
言わば、血を吸うのは水分補給なのだろうか。



「お口に合いますでしょうか?」

「え、あ、すごくおいしい」

「さようですか。安心いたしました」




いちいち礼儀正しい人だ。
こっちが落ち着かない。

私は、私の部屋として用意された、最初の部屋で食事をとっていた。
別に客人でもない、いわば非常食である私が広間で食べるわけにはいかないから。

私だって、誰が好き好んであんな奴と食事を共にしなくてはいけないのかわからないし、これでいい。



ルイが、この城に置いてやると言ったことで、こうしてハンスも私の世話を焼いてくれる。
仕方なくなのだろうけど。




「ねぇ、この城ってさ蜘蛛の巣とか、演出なわけ?」

「簡単に言えば、あれは、掃除をする者がいないというだけの話ですね」

「…言い切ったわね」




こんな親切丁寧な仕事をしている割には、もしかしてああいうのを気にしたい体質なのかしら。
すごく細かく隅々までチマチマと綺麗にしてそうなのに。



「私だけでは、そこまで手が回りません」

「…私だけ?他に家来とかいないの?」

「はい。おりませんね」




意外だ。
もっと、たくさん家来とか執事とかいろいろといそうなのに。