週明け、出社すると、向かいの席の窪田さんが話しかけてきた。

窪田さんは五つ上の男の先輩だ。若く見えるが、もうすぐ三十路。見た目は女の子のように色白に細身で、人なつっこい性格だ。二人の姉を持つ末っ子だというが、まさに、という感じ。

「河本さん河本さん、飲み会やるよ!」

「え、の、飲み会ですか?」

「そうそう、部の飲み会、来週末で調整してるんだけど、河本さんは出席できそう?」

「は、はい、出席します。」

飲み会ということは、課長と接近するチャンス。胸が高鳴る。

「てか、河本さん・・・、髪型変えた?」

「は、はいぃ・・・。」

へ、変ですか?変ですか?変ですか?

・・・・・。


「いいじゃない。可愛い。」

そう言って、窪田さんがにこっと笑う。窪田さんは、いつも子供みたいに無邪気に笑う。

ぎゃー。可愛いとか??な、なんか恥ずかしー!

「か、可愛くはないですよ・・・可愛くは・・・。その、ほら・・・ちょっと人並みになれたかなとか、そのぐらいのもので・・・。ようやく人間になれたというレベルみたいな・・・。」

「人間になれたって、なによ、それ~?」

 私が言ったことが可笑しいかったのか、窪田さんは、今度は声をたてて笑った。

「なぁに言ってんの、河本さん、相変わらず面白いなあ。大丈夫。ばっちりばっちり。ばっちり可愛いよ。・・・でも、急にどうしたの?恋でもしてんの?」

「ばっ、ち、違います!」

「ばっ・・・って、今、僕に対して、馬鹿とか言おうとした?」

窪田さんがいじわるそうに言う。

「ばっ、・・・そんなわけないじゃないですか、先輩に対してそんな・・・。」

「じゃあその、ばっ、ってなんなのよ~。」

すっかり窪田さんに遊ばれている。窪田さんとの会話はいつもこんな感じだ。

「でも、河本さん、ちょっと可愛いって言われただけで、そんなに慌てふためくなんて、新鮮だなぁ。今どきの子ってさぁ、可愛いとか言われても、『ありがとうございますぅ~。』って感じでさ、いかにも言われ慣れてるって感じでさ、あれはあれで、ちょっとさびしい感じするよね、うん。」

「なんか・・・女を知り尽くした発言ですね。」

「えっ、そんなことないよ。知り尽くしてたら、この年まで独り身でいませんって。」

窪田さんは実際、結構モテるらしい。

確かに、見た目はいかにも爽やかで、明るくて面白い、よく笑うし笑顔が可愛い。

他の部署の女の人も、なぜか窪田さんのことを知っていたりするから、かなり顔が広いみたい。

聞いた噂によれば、窪田さんは、よく遊ぶ女の子はたくさんいるらしいけど、彼女は長い間いないらしい。

そういえば、窪田さんからも、以前聞いたことがある。本気で付き合いたいと思う女の子がいないって。

・・・モテる人は、余裕の発言がいやみで嫌だね、ふん。

「そうそう、で、飲み会、また日が確定したら知らせるね。」

 期待をこめて、コクリ、とうなずく。