ある日、ある夜。
そろそろ休もう、そう考えた俺はいつもより少し早く店を閉めようとした。すると

カランコロン・・・

珍しい。こんな時間に客か・・・

「いらっしゃい・・・お、ラーじゃないか。珍しいな、一人なんて。いつもは穂香と行動してるのに。」
「あぁ・・・ちょっとな・・・」

そう言って席に座るラー。その顔は、俺が見たこと無いほど暗く、沈んでいた。

「おい・・・大丈夫か?」

差し出すホットコーヒー。ラーは手に取り、飲むことなく眺める。

「何があった?」
「あの・・・まだ、トーマさんには過去の話はしてないですよね?」
「ああ、まだだ」
「今、話します。」

そう言って語ったのは、いつものラーからは想像できない、言ってしまえば聞きたくなかった話だった。


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「父さん、早く!!!」
「分かってる!もう少しだ!」

ラーは焦っていた。地平線を埋め尽くすほどのアブノは、ゆっくりと、確実に近づいてきている。そんな中、父さんは何か地面でゴソゴソしている。

「早くっっっ!!!」
「出来た!この中へ入れ!」

父さんがゴソゴソしていたのは、人が3人ほど入れる位の大きさの魔方陣。意味も分からず中へ入る。

「カレン、お前もだ!」
「は、はいっ!」

母のカレン・イグニア。母も魔方陣の中へ入る。

「これから転移スペルでお前らをシェルターへ飛ばす。少し浮くような感覚があるだろうが、我慢しろ。」
「父さんは!?父さんも入るんでしょ!?」
「俺は・・・っ!もうアブノがあんなところまで・・・!いいか!お前はもう13だ!母さんを、カレンを守ってくれ!」
「父さん・・・!父さんっ!?」

父さんは二歩ほど魔方陣から離れると、

「時空間隔離《タイムワールドパージ》!」

魔方陣に向かって転移のスペルをかける。

「父さ・・・」

目の前から、父の姿が消えた。