二人の会話が面白くて女の子に抱いた恐怖心が消えた。

「橘は?」

「えっと……」

いつもは大体紅茶のホットだけれど、奢ってくれる今日は違うものを頼もうかと思った。

「私は海老アボカドサンドとロイヤルミルクティーをホットで」

「かしこまりました」

女の子は張り付けたような笑顔のままレジを操作する。
カウンター内で瑛太くんが液体をスチームにかけるゴオォォという音が響く。そして用意したトレーの上にそれぞれのカップを置いた。私のカップの横にはスティックシュガーが添えられている。

「ごゆっくりどうぞ」

瑛太くんは客席に行く私たちに笑いかけた。それに応えるように私も瑛太くんに笑顔を向ける。

トレーを持つ山本の後ろを歩きながら、私は小さく溜め息をついた。考えすぎかもしれないけれど、あのレジの女の子は私に敵意を向けているような気がした。

「さすが彼氏くん。橘の好みを分かってるよ」

席に座ると山本が私のカップを見て笑う。

「何で?」

「砂糖つけるか聞いてないのに添えてあるよ」

「前からお客さんとして来てた時に覚えてくれたみたいで、もう言わなくてもお砂糖とかミルクをつけてくれるの」

「はいはい惚気、ごちそうさまです」

自分から聞いてきたくせに嫌そうな顔をする山本にほのかに怒りが湧く。

「橘って面食い?」

「は?」

山本の突然の質問に驚いた。

「彼氏イケメンだからさ」

「面食いってこともないけど……」

顔で彼を選んだわけじゃない。でも瑛太くんを誉められて悪い気はしない。

「前から思ってたんだけど、このカフェって男の子も女の子も美形多いな」

「そう? 気にしたことなかった」

「レジ女の子、めちゃタイプ。なのに話しかけられなかった」

ボソッと呟いた山本を冷めた目で見る。面食いはどっちだ、と。