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愛世はディアランの屋敷に戻り、間借りした部屋へ入ると寝台に腰かけた。

帰り道、涙がこぼれて仕方がなかったがアルファスには見られなくて良かったと思った。

……あの後アルファスは何も言わずにその場から立ち去った。

浮かべていた侮蔑の表情をスッと消すと愛世から顔を背け、身を翻したのだ。

愛世は思った。

もうどうしようもないくらい、王様に嫌われてしまった。

こんな状態でこの先も城内に住むなんて心苦しい。

「アイセ、いるのか?入るぞ」

入り口の幕の向こうから、控え目に呼ぶディアランの声が聞こえた。

どうぞ、という愛世の返事を聞いてディアランが部屋に入ると、彼の身体にすり込まれた香油の香りがフワリと広がる。

風呂上がりのディアランは薄いVネックのノースリーブ姿で、赤茶色の髪はまだ濡れていた。

「アイセ」

優しく微笑んで愛世の前で膝をつくと、ディアランは彼女の顔を覗き込んだ。

するとすぐに愛世の異変に気付いてその顔を凝視する。

……眼が赤い。それに頬には涙の跡が。

「どうした?」

ディアランは愛世の隣に腰掛けると彼女の頭に手を添え、胸に引き寄せた。

「何があった?」

「……」

愛世はディアランにもたれたまま彼の胸の鼓動を聞き、ポツンと呟いた。