花屋とコンビニのバイト、両方をかけ持ちでするのは、結構ハードだった。

水に慣れない私の手は、ふやけてすぐに傷ができる。
そこへ持ってきて、コンビニの品出し。いつの間にか擦り切れてて、それが花屋の水に浸かってしみる。
そんな事を繰り返しているうちに、とうとう全部の指が絆創膏だらけになった。

「岩月さんの手、痛々しい…」

バイト仲間の子(玲央名ちゃんという名前らしい)が、嘆くような顔をした。

「ホント、女の手じゃねーな」

タバコを買いに来たノハラも呆れ返った。

「仕方ないでしょ!仕事してるうちにいつの間にか切れてるんだから…!」

言い訳をする。手袋をせずに、素手で水を扱うのが原因なのだ。

「お前、佐野さんの言うこと守ってねーだろ!」
「守ってるけど、こーなるのっ!」

余計な一言に、同じように言い返す。そんな私を見て、玲央名ちゃんはあんぐりと口を開けたままだった。

「……岩月さんって、あの人の前だと別人ですね…」

コンビニを後にしたノハラを眺めて呟かれた。

「えっ…そう⁈ 」

白々しく聞き返した。

「そうですよ!いつもは大人しくて恥ずかしそうにしてるのに、あの人の前だと結構大胆だし、元気いいし…」
「あはは…そうでもないよ」

単に慣れだと答えた。そこまで態度が違うとは、自分でも気づいていなかった。

「ただの友人だって言ってたの、ホントだったんですね。全然色気ない。二人とも…」
「ははは…」

喜んでいいのかどうか。取りあえず、友人だと分かってもらえたのなら良かった。

(これでノハラが来ても、茶化されずに済む…)

やれやれと肩の荷を下ろした所で、玲央名ちゃんがさらりと続けた。

「まるでお笑いコンビみたいで面白い!息ピッタリだし!」
「はぁ⁉︎ 」


ーーつい先日、それと似たような事を「とんぼ」で言われた。
店長夫婦は、私とノハラを捕まえて、漫才コンビのようだと笑ったのだ。

「まるで掛け合い漫才してるみたい。面白いわぁ」

奥さんはやたらウケていた。私達の会話が、可笑しくて仕様がなかったらしい。

(こっちはちっとも面白くないのに…)

相変わらずお酒を飲ませてくれないノハラに、私は不満だらけだった。
この時も、就職祝いをしてやると言って誘ってくれた割りに、飲ませてくれたのはコップ一杯のビールだけ。
スピーチの練習をした時となんら変わらないその仕打ちに、ブーブー文句を言ったら笑われた。


(皆、他人事だと思って悠長なんだから…)

近頃はコンビニだけじゃなく、佐野さんの所へ来てもからかう。
中学時代のままのノリで突っ込まれるから、つい昔に戻ってしまう…。

緊張しなくて済むから助かるけど、ホントはもう少し、大人らしく付き合いたい。

(でも、あのノハラが相手じゃ無理か…)

佐野さんのような大人ならともかく、ノハラは子供だ。
大人になっても変わらないその性格が羨ましい反面、うるさい時もある。

(でもまぁ…変わらない関係でいられるのは有難いか……)

いつかの温室のように、男性として変に意識したくはなかった。
ノハラはノハラのまま、友人として、付き合っていたかった…。