あの日は帰るつもりだった。


いつもより少し遅く終わった仕事。
クタクタのまま乗り込む電車。

平日の22時を回ってもこの街は賑わっている。



もう一度言うけど
あの日は本当に話を聞いて帰るつもりだった。

そう、ただ
友達を励ましに仕事帰りに向かっただけ。


合流していつもの居酒屋に腰掛けるものの
あまりの友達の落ち込みっぷりに励ましの言葉が見つからなかったのが
正直なところで二杯程飲んだって
決して盛り上がるわけもなく
どんよりした空気につつまれている私たち。





「......なんで連絡ないかな?」

「ん〜〜 理解不能。」


そんな会話を繰り返した後
やはり空気は重くなるばかりで
すぐに店を出た。


そのままいきなり音信不通になった
友達の彼のバーへ向かいながら
泣きそうな友達


それはもう
なだめる言葉なんて見つからないほど
決定的な状況だった。

音信不通の相手が働くバーに乗り込むなんて
修羅場が待っていることは
2年浮いた話のない私にもわかり切っていた。




「ほんとに行って元気に彼が働いてたらどうするの?」



「でもとにかく心配で仕方ないから見に行くっ!!お願いついて来てよ!」




私まですごくドキドキしたのを覚えている。

バーは2階にある。
ゆっくりゆっくり一歩ずつ登りながら
どうにか看板の電気が点いていませんように。

それを祈るばかりだった。



階段を登り切り第一関門突破。
電気は点いていなかった。




「でも一応ドアを開けてみる。」



私でも逃げ出したいくらいだったから
彼女はきっともっと怖かったはず。
恐る恐る扉に手を掛けたものの
終わりはあっけなく
鍵がしまっていて完全に開いていなかった。

このバーはだいたい開いていて
閉店なんて本当に珍しい。


重い足取りのまま商店街へ引き返す私たち。






そんな時彼女の電話が鳴った。
男友達からの誘いのようで
帰ろうとしていたのに合流することになった。

実際口には出してなくても
私の友達とその男友達は仲が良く
男友達が連れてくるもう一人の男と
私がどうせペアみたく話さなくてはいけないんだろう。




全くノリ気じゃない私。本当に帰りたかった。


嫌なことを忘れてしまいたい友達を
放って置けずそのまま
待ち合わせ場所にトボトボ歩いて向かった。




「うぃーーーす!!!!」




元気な声が後ろから聞こえて
振り向くと2人の男の人。



あ、本当に帰りたい。





友達の連れてきた男は
全然好きじゃないタイプだ。

中身は知らないけ帰りたい。



心からそう思った。



今はやりというのか
髭が生えてて黒くてスラッとした筋肉質。