ふわふわとした足取りで緊張しながら向うホテルでは、どんな外装だとか何階だとか全然頭の中に入って来なかった。――外泊して男の人と会っている時点で、麻薬のような、ふわふわした熱が襲っていたから。もう右も左も分からない。


ただ、ぱたりと部屋のドアが閉まった瞬間、廊下の電気が遮断され視界が真っ暗に染まる。
うっすらと浮かぶ月の淡い光に目が慣れてきた瞬間、デイビットさんに後ろから抱き締められていた。


「緊張していますね。美麗」

するすると首筋に優しくデイビットさんの唇が這って行く。身体をぞくぞくした甘い疼きが支配する。
怖いと思った。今すぐ逃げ出したいとも。
でも、親に嘘をついてまで此処に来た自分。言いつけを守らなかった自分。

――悪いことをしている気分になる自分が楽しくて仕方なかった。


「せっかく綺麗に着物を着ているから、――脱がすのが忍びないですね」

デイビットさんは甘い毒を吐く。私を痺れさせて、丸呑みにするための、毒。
でも毒が体中に広がった方が、きっと痛くない。