空は少し陰りが見えた。
18時から開催なのに、もう薄暗い。
月が雲に隠れてしまった夜空の様に元気がない空の色が、私の気持ちに不安を与えてくる。


「美麗さん、春月堂の幹太さんがお迎えに来られていますよ」

襖の抜こうからお手伝いさんの声を聞こえ、慌てて窓を閉めて廊下へ歩き出す。

母が用意した着物は、地味な藍色の染め絞りの着物。詳しい専門家が見れば高価で、高度技術で作られたと分かる、控え目な着物。

でも私はそんなの着たくなかった。
「すいません、幹太さんっ 早く来て頂いて」

「いや。乗って」

いつもの調理場から見える作業服の甚平ではなく、灰色のスーツを着ている幹太さんは何だか別人のように見えた。

「その着物を預かればいいんだろ。高そうだから汚れても責任は負えないが」

「はい。大丈夫です。お願いします」

昨晩、こっそり春月堂の電話をかけた。23時過ぎだったので非常識過ぎて本当に申し訳なかったけど、幹太さんはやはり居た。
話を聞いてくれて色々と無茶なお願いも聞いてくれた。