「え?」

短大を卒業したその日。袴姿の私は、母に卒業証を見せに部屋に伺っていた。
舞踊の師範代にして、父亡き今、本家を取り仕切っている母は、一ミリも隙のない冷たく刺さる様な瞳で私を見ている。
凛と伸ばされた背筋。表情も変えないその姿はもう慣れてはいる。

明日から母の手伝いに奔走する毎日だと、覚悟を決めていた矢先だった。
母から言われたとんでもない言葉に私は耳を疑った。


「だから、私の跡は貴方が継がなくて結構です、と申したんですよ」

「……っつ」

くらりと座っているのに目眩がした。
どうして?
そればかりが頭を過る。
英語科の就職活動で英会話教室や塾の講師、OLなんてのも憧れて色々受けようと母に相談していた。
それを母は『私の下で働くんだから、就職なんてする必要はありません』と、『本当は短大なんて時間の無駄で、すぐにでも私の稽古を始めたかったのよ』そう強い口調でバッサリと言われて、私は自分の意見なんて言えなかった。

「貴方は、馴染みの和菓子屋に頼んでいます。明日から其方で働きなさい」

「――何で?」

言葉が出てこない私の後ろから、襖が開けられた。

「お姉ちゃん、ごめんなさい」