屯所に戻ると、そこには漆黒の髪を高い位置で一つに束ねている男が立っていた。

 誰だろう? 見たことない人だなあ。

「あなた、何者ですか?」

 気配を消し、刀をその男の首に当てた。

 そのとき、一瞬だが今までに感じたことのない殺気を感じた。

 何……この殺気……。まるで、血に飢えた狼だ。

 ひやりと冷汗が流れたのが自分でもわかった。

「新撰組に入隊したいと思っているのですが……」

 入隊希望者? ……珍しいなあ。

「そうですか」

 刀を彼の首から退かした。

 すると、彼はゆっくりとこちらを向いた。

 円らな髪よりも深い黒い瞳。透き通るような白い肌。男にしては細い体。

 ……この人、本当に男!? 着物着せたら完璧そこらの女より綺麗でしょ。……こんな人があんな殺気を放ったのか。しかもこの目、何人もの人を殺してきた目だ。すごく冷たい。

「ついてきてください」

 刀をさっと納め、広間のほうに歩き出した。

「ここで待っていてください」

 彼をそこで待たせ、近藤さんのところに向かった。

「近藤さん、お客さんですよ」

 襖を開けながらそう言うと、中には近藤さんと……鬼がいた。

「土方さんもいたんですね」

「ああ」

 あー。なんか怒ってるよ、この人。別に機嫌悪いのはいいけどさ、人と話すときぐらい装ってよね。八つ当たりされちゃうじゃん。

「総司、お前はなんで入る前に名乗らねえんだ! いつも言ってるだろうが! いつになったらできるようになるんだ!」

 ほらきたー。あー、うるさいうるさい。

「まあまあトシ、落ち着け。で、総司。その客人とは?」

 さっすが近藤さん! 気が利くー!

「入隊希望者ですよ」

 そう言った瞬間、土方さんがギロッとこっちを睨んできた。

 なんで睨むのさあ。

「間者の可能性は?」

「今はなんとも言えませんね。……ただ、実力は確かですよ」

 あんな殺気を放つんだ、実力は相当だろ。

「怪しいな……」

「まずは話をしてみよう。結論はそれからでも遅くないだろ」

 近藤さんは本当、心が広いなあ。誰かさんとは大違い。

 僕たちは広間に向かった。