「で、なんで見てるんですか?」

 沖田がさっきからずっとこっちを見てる。

「いや、別に。ただ興味があるだけだよ」

 興味、ねえ……。

「……嘘ではないようですが、真の目的は私の監視、ですよね? 別に何もしませんよ。時間になるまでただただ素振りしてるだけですから」

 幹部の顔は認識しといたほうがいいし、まだ探りを入れるには早すぎる。

「気にしないでよ。僕のことは空気だと思ってくれればいいから」

 じゃあ気配消せよ! 気配あるとどうしてもそっちに気が行っちまうんだよ! わかっててやってんだろ、こいつ。

「はあー、わかりました」

 沖田はいない。沖田はいない。

「ねえ、君はどうしてそんなに頑張るの?」

 素振りを始めてしばらくしてから、沖田がそう聞いてきた。

 空気が話しかけてきてんじゃねえよ。

「強くなりたいからに決まってるじゃないですか」

 わかりきったことを聞くんじゃねえよ。

「どうして強くなりたいの? 今でも十分強いでしょ」

 強い……。

「私は強くないですよ、全然」

 どれだけ鍛えても、大事なところは、強くならない。

「でも……」

「先程言っていた理由ですが、そんなものはありません。強くなるのは自然なことだと私は考えています。この世は今、弱肉強食の時代です。弱ければ殺され、強ければ生き残る。生きるために強くなる、そう本能が言っています」

 私は強くならなければならない。生きるために。

「理由があるとするならば、復讐、ですかね」

 あの男への。

「復讐?」

「私はある男を必ず殺す」

 逃がさない。必ず見つけて、あいつの喉元を切り裂いてやる。そのあとで首だけ仲間のもとに献上しよう。いや、ここは長年の憎しみを込めて腕1本、というのもいいかもしれない。仲間の絶望した顔が浮かぶな。

「ある男って、誰?」

「沖田さんには関係ありません」

 そこまで踏み込ませる気はない。

「……そう」

 知ってても無意味だしな。

 意識を彼から外し、素振りに集中した。

「そろそろ時間だよ」

「わかりました」

 刀を鞘に納め、広間へと向かった。