天才剣士と戦えるとは、今日はついてるな。

「試合、始め!」

 私はその合図とともに沖田との間合いを詰め、木刀を鋭く振るった。

 彼はそれを受け流し、私との距離をとった。

 ……そう簡単には勝たせてもらえないか。

「決めさせてもらうよ」

 そう言うと、沖田の構えが変わった。

 あの構えは天然理心流平星眼。三段突きをするのか。

 三段突き。足音が1回しか鳴らないのに3回突かれる、沖田が一番得意としている技だ。

 でももうあれは調べ済み。私には効かない。

 それを全て避け、素早く彼の後ろに回り込んだ。

「そう簡単には勝たせないよ」

 腕に打ち込もうとしたが、それを受け止められた。

 ちっ……。

「三段突きを避けられたのには驚いたけど、それで勝ったと思わないでね」

 こいつ……この勝負を楽しんでる。遊びとでも思ってるのか?

「勝ったとは思ってませんよ。さっきのはわざと、ですよね?」

 あんな簡単に隙を見せるわけがない。天才剣士と言われるほどの実力者なら尚更だ。

「気づいてたの? ……じゃあわざと乗ったのか」

 当然だ。

「はい。そのほうが面白いじゃないですか」

 相手の実力が図れないのにこんなふうに楽しむとは、私たちは似ているのかもしれないな。

「同感だよ。さあ、もっと楽しませてよ」

 じゃあ、もう少し遊びましょうか。

「そうですね」

 素早く彼の後ろに回り込み、今度は足を狙う。

「速いね。でも、まだついていけるよ」

 まだ、ね。

一瞬だけ口角を上げた。

「そうですか。それではこれはどうでしょう?」

 一度沖田と距離をとった。

 もう2段階上げるか。

足に力を込め、一気に間合いを詰めた。

「なっ……!」

「終わりです」

 右腕に打撃を与えた。

 あっ……強くやりすぎた。

「勝者、神田」

 さて、私はどういう扱いになるのかな?

「……神田の入隊を許可する」

 土方が私の傍まで来て、不満そうにそう言った。

 まっ、約束は約束だからな。

「ありがとうございます」

 ぺこりと土方に頭を下げた。