このメンバーの中では一番遠いという深月ちゃんの家に行った。
なかなかの門構えの家の前に、麗眞くんの執事さんの運転する車が静かに止まった。
立派過ぎる、黒い重そうな門の扉を苦労して右に開けて、深月ちゃんは私たちに手を振った。
「また月曜日ねー!」
皆で、車の中から彼女に手を振った。
その時、誰かの携帯が振動する音がした。
「おや。
どなたですか?
メールの着信のようですが。
おそらく、岩崎 理名様か柳下 碧様のどちらかでは?」
「あ、私だ」
青いスマートフォンのロックを解除し、メールを見る。
『遅くなる。
今日も先にご飯食べてていいぞ』
「お父さんから?」
顔が険しくなったのが分かる。
横にいた椎菜ちゃんの声に、一瞬だけ身体をビクつかせた。
なぜバレたのだ。
「図星かな?
理名ちゃん、お父さんの話する時、眉間に皺寄った顔になるもん。
すぐ分かる」
そうなのか。
それは気をつけなければ。
あらぬ誤解を招きそうだ。
「帰ったら先にご飯食べろってさ」
いちいち、そんなこと言わなくてもいいのに。
メールが来るだけで楽しい気分が台無しだ。
いないならいないで、私が寝ている間帰ってくればいいことなのに。
昨日の、あの雨の日、帰り道に少し話したことで、父に変な下心がないことだけは、微かに分かった。
だが、実際はわからない。
本当に、仕事帰りに密会しているということも有り得る話だ。
父は酔うと酒癖が悪くなる。
考えたくはないが、酔った勢いで、なんてことも、あったりするのだろう。
そうなったら、私はどうするべきだろう。
「きっと、娘である岩崎 理名様との接し方が分からないのでございましょう。
貴女様はお年頃ですし、尚更に。
これは私の推測ですが、理名様がまだ幼い頃は、貴女様の母親に育児や世話を任せっきりだったのではないですか?」
麗眞くんの執事の相沢さんの言葉に、強く頷いた。
「あんまり遊んでくれなかった。
いっつも仕事仕事仕事って!
仕事は逃げないっつーの!
遊んでくれるって言っても、公園に連れ出して満足してて。
自分は私が母と遊んでるのを眺めてるだけだったよ」
私の両隣の碧ちゃんと椎菜ちゃんが私を見てニコニコ微笑んだ。
何?
何かあるの?
タメ口で身の上話を喋ってしまっていたことにようやく気がついた。
こんなことは、中学生の頃の私では有り得なかった。
友達に弱みを見せたら、何かあった時につけこまれると思いこみ、一切自分の身の上話はしなかった。
母が看護師ということさえ、ごく一部の、信頼出来る人にしか話さなかったほどだ。
何かあったときに、頼られるのもウザかったからだった。
それは、あることをきっかけにバレてしまったのだが。
中学生から高校生になって、そんなに日が経っていないのに。
なぜ、こんなに打ち解けているんだろう。
それはきっと、最近出来た「友人」たちのキャラクターが、氷のように頑なだった、私の中にある何かを溶かしてくれているのだ。
そんな風に考えて、納得した。
相沢さんの低い声が、私の思考を止めた。
誰かの家に到着したようだ。
「柳下 碧様。
この辺りでよろしいでしょうか」
「はい、ありがとうございました」
執事の相沢さんは、車を停めると、助手席から降りて、碧ちゃんを抱き上げると、玄関口に降ろした。
……うわぁ。
生のお姫様抱っこ、生まれて初めて見たわ。
「失礼致しました。
お身体が弱いと聞いておりましたゆえ、無粋な真似を……」
「いえ……」
真っ赤にした顔を伏せながら、碧ちゃんがゆっくりとした足取りで家に入って行ったのを皆で見送った。
なかなかの門構えの家の前に、麗眞くんの執事さんの運転する車が静かに止まった。
立派過ぎる、黒い重そうな門の扉を苦労して右に開けて、深月ちゃんは私たちに手を振った。
「また月曜日ねー!」
皆で、車の中から彼女に手を振った。
その時、誰かの携帯が振動する音がした。
「おや。
どなたですか?
メールの着信のようですが。
おそらく、岩崎 理名様か柳下 碧様のどちらかでは?」
「あ、私だ」
青いスマートフォンのロックを解除し、メールを見る。
『遅くなる。
今日も先にご飯食べてていいぞ』
「お父さんから?」
顔が険しくなったのが分かる。
横にいた椎菜ちゃんの声に、一瞬だけ身体をビクつかせた。
なぜバレたのだ。
「図星かな?
理名ちゃん、お父さんの話する時、眉間に皺寄った顔になるもん。
すぐ分かる」
そうなのか。
それは気をつけなければ。
あらぬ誤解を招きそうだ。
「帰ったら先にご飯食べろってさ」
いちいち、そんなこと言わなくてもいいのに。
メールが来るだけで楽しい気分が台無しだ。
いないならいないで、私が寝ている間帰ってくればいいことなのに。
昨日の、あの雨の日、帰り道に少し話したことで、父に変な下心がないことだけは、微かに分かった。
だが、実際はわからない。
本当に、仕事帰りに密会しているということも有り得る話だ。
父は酔うと酒癖が悪くなる。
考えたくはないが、酔った勢いで、なんてことも、あったりするのだろう。
そうなったら、私はどうするべきだろう。
「きっと、娘である岩崎 理名様との接し方が分からないのでございましょう。
貴女様はお年頃ですし、尚更に。
これは私の推測ですが、理名様がまだ幼い頃は、貴女様の母親に育児や世話を任せっきりだったのではないですか?」
麗眞くんの執事の相沢さんの言葉に、強く頷いた。
「あんまり遊んでくれなかった。
いっつも仕事仕事仕事って!
仕事は逃げないっつーの!
遊んでくれるって言っても、公園に連れ出して満足してて。
自分は私が母と遊んでるのを眺めてるだけだったよ」
私の両隣の碧ちゃんと椎菜ちゃんが私を見てニコニコ微笑んだ。
何?
何かあるの?
タメ口で身の上話を喋ってしまっていたことにようやく気がついた。
こんなことは、中学生の頃の私では有り得なかった。
友達に弱みを見せたら、何かあった時につけこまれると思いこみ、一切自分の身の上話はしなかった。
母が看護師ということさえ、ごく一部の、信頼出来る人にしか話さなかったほどだ。
何かあったときに、頼られるのもウザかったからだった。
それは、あることをきっかけにバレてしまったのだが。
中学生から高校生になって、そんなに日が経っていないのに。
なぜ、こんなに打ち解けているんだろう。
それはきっと、最近出来た「友人」たちのキャラクターが、氷のように頑なだった、私の中にある何かを溶かしてくれているのだ。
そんな風に考えて、納得した。
相沢さんの低い声が、私の思考を止めた。
誰かの家に到着したようだ。
「柳下 碧様。
この辺りでよろしいでしょうか」
「はい、ありがとうございました」
執事の相沢さんは、車を停めると、助手席から降りて、碧ちゃんを抱き上げると、玄関口に降ろした。
……うわぁ。
生のお姫様抱っこ、生まれて初めて見たわ。
「失礼致しました。
お身体が弱いと聞いておりましたゆえ、無粋な真似を……」
「いえ……」
真っ赤にした顔を伏せながら、碧ちゃんがゆっくりとした足取りで家に入って行ったのを皆で見送った。