「その本、いつも読んでるよね」



冷たい風が吹く夜中の駅のホーム。



隣に座る彼女が、小さくそう呟いた。




「……小さい頃、母さんがくれたんだ」


僕はそう言いながら、開いていたその本を閉じた。



「もう、何回くらい読み返しているの？」


「ん～、どうだろう……もらった時から読んでるから、もう数え切れないな」



小さい頃、と言ってもどのくらい小さかったかは覚えていない。



この本をくれた母の顔すら、よく思い出せない。