「なんでここにいるんだ!」
「あ、やっと帰ってきた~」
自宅の前には、白銀の髪をゆるくひとまとめにした白いローブを着た青年がニコニコしながら手を振っていた。



「いやー、本当に探しましたよぉ?いきなりいなくなるんですからー。おかげでこっちは心労で剥げるところでしたよ!ああッ、なんて苦労性な俺ッ!!!」

やけに芝居がかった動作で、己の体をひしと抱きしめる男。
その眼もとには涙がきらりと粒を作っている。芸が細かい。
ともあれ、面倒なことになった事には変わりがない。



「……なぜお前がここにいるんだ。」
「なぜ、とは異なことをおっしゃいますね。もちろんあなたを探しに来たからじゃないですか。こんな遠路はるばるどころか世界まで越えて。ねぇ――――――王様?」



待て待て、トリップはそんなに簡単にできるものなのか、とか王様(笑)って誰とかいろいろ突っ込む前に、隣に立つクソガキからただならない気配を感じた。
その気配は燃え上がるように一気に場を満たして息が苦しい。





逃げたい。
今すぐこの場から。
じゃないと私なんかあっという間に喰われてしまう。




「おやおやぁ?自分の国民を投げ出して逃げたへっぴり腰な王様にしては、ずいぶんと強い殺気ですねぇ。俺は慣れているからいいですけどぉ。いいんですかぁ?その子、今にも意識飛ばしちゃいそうですよ?」

はっとした様子で、クソガキがこっちを見た。
思考回路がまともに働かない視界の中で苦い顔をしているのだけ目に入る。
それは私が今まで見たことのい種類の顔だった。



馬鹿か。
お前にそんないっちょ前の顔ができるほど精神年齢高くないだろ。
コントか。



いつもみたいに言えればよかったのに。
のどに何か詰まったようになって、声が出せない。
実際に呼吸をし忘れているのだと気がついたのは、クソガキの周りの空気が霧散してから数秒後だった。



肩で息をしていると、ためらいがちに大きな手がゆっくりと背中をさすってくれる。
ためらいがちでも、いたわるようなそれにようやくほっと息をついて―――










「てめぇ、私を殺す気かっっ!!!」
思いっきり左手をフルスイングさせていただきました。



















「ぶはっ!あははははははぁはっ!この人、英雄なのに、王様英雄なのに平手打ち!!!」
とりあえず白髪頭を家に招き入れて(拒否しようとしたら爆笑しながら脅された)から数分。いまだに白髪頭の笑いがおさまらないのは、テーブルを挟んで真向かいに座っているクソガキのせいだろう。
私がぶっ叩いた右頬にしっかりと痕跡が残されているせいで、笑いが納まらないらしい。

「………ライナー」
「はぁはぁ、そんな、顔で凄んだって、ぶふっ怖くないですよぉぉぉははははっはは!」
「おい、クソガキの知り合いはみんなこんななの?」
「こいつは頭のねじが飛んでるんだ」
「ええぇもう、王様ったらひどいんですからぁ。俺ほど優秀な部下なんていないでしょうに。」

その言葉に言い返さないところを見ると、実際この白髪は優秀なんだろう。クソガキの眉間がトタンのように波打っている。


はぁ、なんでこう次から次へと厄介ごとが…
この狭い部屋に外国人並みにでかいのを二人も入れると部屋の空気が薄い。
わたしはそっと窓を開けた。


「さぁて、笑うのもこれくらいにして本題に入りますかぁ。あ、長くなると思うんでお茶用意してください。」
「てめぇ頭かち割るぞ」
「やだ~お茶くらいでかっかしないでくださいよう。お茶の葉はこちらで用意しますから!」

そういいながら空中に手を突っ込んで何かを取り出した。見たこともない文字が書かれている木の筒をポイ、とほおってよこすものだからクソガキの眉間にクリティカルヒットした。
ちなみに、動作は「ポイ」という表現で正しいモノの実際の速度は剛速球だ。
クソガキは不意打ちの至近距離でよけられなかったため、床で悶えている。


「王様っていうわりに扱いひどいな」
「そんなクソボケヘッピリ王にはこれくらいで十分なんです。さぁ、あの銀の容器にお湯を満たしてありますから、お願いしますね」
バチンッと星を飛ばしながら(揶揄ではなく現実に)ウィンクをかました白髪にイラッとしながら無言でキッチンにお茶を淹れに行く。


どんなエフェクト使ったら星とか出るんだよ!!気になるだろうが!


イラッとしたのをクソガキを踏んでいくことによって解消しながら、お茶を淹れに行く。後ろではさらに悶えるクソガキと、白髪の爆笑再発によりなかなかカオスな状況になっている。





ああ、もう本当に勘弁してほしい。




やかんに満たされたお湯を確認しながら、今までいまいち実感していなかった異世界という存在を強く意識をする。
呪文の詠唱とかそんなファンタジーチックなことはしていなかったけど、今ここにお湯があって元栓もしまっている状況で白髪の魔法による魔法が本当のものであることを理解する。