「外に出ることにあたっての注意事項をもう一度言ってみな。」
「決してあれこれと質問しない。お前から離れない。お前の言葉に必ず従う。
魔法の使用は禁止。」
「よし、ちゃんと守れるな?」
「子供ではないのだ。それくらいは守れる!」

玄関を出る前の最終確認。
鼻息荒く今にも外に飛び出していきそうなクソガキの首根っこを摑まえながら、きずかれないようにため息をついた。




事の発端は、昨日の夜におこったクソガキの癇癪である。



「いつまで俺はこの狭苦しい部屋に軟禁されねばならんのだ。」
「軟禁とはいい言葉知ってるじゃないか。
誰が軟禁してるってぇ?保護してやってんだろうが。」


私が保護してから、クソガキは一歩も外に出ていない。
このクソガキがどんな風に動くか予想できないうちは、決して外に出ることを許さなかったからだ。
じゃないと、こいつはあっという間に職質されて面倒なことになるか事故って死ぬ。その2択しか思いつかなかった。


いくらどうでもいいとはいえ、死なれてはどうしたって目覚めが悪いし面倒ごとはもっと嫌だ。


「外に出たい。馬で駆け回りたい。剣の稽古もしておらん。ここがどのような場所か知りたい。お前、いい加減俺を外に出せ。」

クソガキがいつものように怒鳴らないのは、ここが私の力を借りることでしかこの世界を理解できないとようやくわかってきたから。
とは言いつつ、上から目線な物言いは変わらないし腹がたつ。
無言でジッとクソガキを睨みつけていると、こめかみに青筋をピクピクさせながら屈辱に歪む顔を伏せて絞り出すように「お願いしてやる」とかすかに聞こえた。




お願いしますだろ。




あまりの出来の悪さに思わずため息をつくと、クソガキの堪忍袋(そもそもあるのか?)の緒がきれた。

「ぅおおまええええっ!この、俺が!頭を下げてやっているというのに、なんだそのバカにしたような態度はああああっ‼︎」
「ような、じゃなくてバカにしてんだよクソガキが。大体それがお願いする態度?テメェの事棚に上げてんじゃないよ。」
「このっ....!言わせておけば....っ」
「あんたのその人を見下したような態度はどうにかならねぇのか?私だって好きであんたをここに置いてるわけじゃないし、軟禁する趣味もない!けどな、私の言うことをきっちり守らないうちにクソガキを外に出したらロクなことにならないことだけはわかってんだよ。
躾のなってないヤツを放し飼いにするほど、根性腐ってないんでね。」
「....お前の言うことを聞けば、外に出れるのか?」



え、そこ?
毎回思うけど、この人どこか抜けてる。
いや、それほど外に出たいということか。



「.....そうだね。」
「わかった。その条件のもう。」
「は?」


いやいやいや、急に素直になられても気持ち悪いんだけど。
今何が起こったのかわかんないから‼︎
もう一度、さっき言ったことが本心から出たものか確かめるため奴の顔をジッと見てみる。
そんなことしても、実際はわからないけどね?


すると、クソガキは形の良い眉をこれでもかというくらいに真ん中に寄せて、文句あるかと目で訴えてきた。

「本当に、守るんだな?」
「ああ。」
「いつもみたいに変な気位の高さで癇癪起こしたりしない?」
「癇癪なんぞ起こしてないだろうが。」
「絶対口答えしない?」
「お前はどれだけ俺を信用してないんだ!」
「これっぽっちもしてないけど?」
「〜〜っ‼︎とにかく‼︎‼︎男に二言はない‼︎」

ふんだっ!とそっぽを向いたやつに膝カックンを食らわせるとものすごい形相で睨まれたが、いつものように噛み付いてこないあたり、本気なんだろう。
ふむ。確かにこの部屋でずっと過ごすのは私でも辛い。


「......いいよ。外に連れて行ってやる。」