──7月に入ったばかりの頃。





坂口くんに「一緒に帰ろう……」と誘われて、とぼとぼ歩く学校の帰り道。






道路の陽炎がゆらゆらと揺れている。






学校を出てから、暑くて体力が奪われているせいなのか、二人ともほとんど口数が少ないままずっと歩き続けている。





流れている白い雲を追いかけて目線を下ろした瞬間、坂口くんとバシッと目が合った。






息を切らせながら話す周翼。








「吉井さん……」






「何───?」







「あのさ──、こんどさ……。一緒にボーリングに行こう」







「えっ………………」






菊恵の脳裏で直ぐに後輩の高谷の顔が浮かぶ。






ダメ、ダメ、ダメ……、「うん」って返事はできない。







もし、私が一緒にいったら……、坂口くんに春は一生訪れないかもしれない。








周翼から目をそらし、下を俯いた菊恵がか細い声で「ごめん……」と一言いった。








自分の中で予想をしていなかった返事が返ってきたので動揺をする周翼。






「どうして……・……」






焦る菊恵。





本当の理由なんて話せない。






後輩の高谷さんと交わした約束。






──誰か、助けて!






そう、心の中で 思いっきり強く叫んだ。







顔を上げた次の瞬間、30メートル先に私服姿の元サッカー部のキャプテンの西島先輩の姿が目に入る。






──助かった。







安堵の顔の菊恵は胸を一度撫で下ろし、笑顔を作って「西島せんぱーい!」と西島先輩の元に勢いをつけて駆けていく。