愛の音、そう書いて『アイネ』。

なんて素敵な響きだろう。

綺麗で、それでいて優しくて。

人は皆彼のことが好きだった。



ほら、その証拠に。

空っぽの棺の為に、沢山の学生服が並んでる。


ほら、笑わなきゃ、私。

愛音くんとの最後のお別れなのに、ほら、笑わなきゃ、私、ほら。


唇を噛みしめなきゃ、心臓から絞り出された何かが溢れそうで。


彼が好きだった、海が視界いっぱいに広がる岬。

彼はそこにいなかった。

あったのは、主がいなくなったローファー一対。そして、教科書と最後の手紙が入った鞄。



『詩鳥、また歌って』



「...うッ....フッ....アイ、ネ...くん....」

決壊してしまったダムは、もう元には戻らなかった。



愛音くんが死んだ。

もう彼の歌は聞こえない。