仲人の中村がまず立ち、仁の両親と葵の両親をどうぞと先に退出させる。義孝、恵美子も足がしびれたらしく、歩き方がぎこちない。それは葵も同じで、足が限界だった。慣れない着物に正座。我慢強いとはいえ、すでに正座をして1時間を超えていた。途中、何度か体勢を変えていたが、しびれは逃れることなく、葵の足にとどまっていた。もう感覚もない感じであった。





「少し、庭でも観ますか? 外の空気でも吸いましょうか?」

「はい」





すっと立ち上がった仁に対し、葵は、やはり足の感覚がなくなっており、立てない。それでも何とか畳に手をついて、立ち上がろうとした。その様子を見て、仁はすっと手を差し出した。痺れているのが分かったのだ。





「ずっと正座で痺れたのでしょう。辛そうにしていたので気にはなっていました」

「す、すみません」





差し出した仁の手はとても大きく指がとても長かった。差し出された手に掴まり、立ち上がろうとした時は既に遅し、力が入らず、よろけてしまった。





「あっ!」

「大丈夫?」





そう言われて、葵は自分がいまどうなっているのか見ると、仁の胸に抱き付き、その勢いで仁は倒れてしまった。





「す、すみません!」





焦ってどけようとしても、足が全くいう事をきかず、動かすこともままならない。





「ど、どうしよう。ごめんなさい!」

「大丈夫ですよ、こうしましょう」





仁は葵の腰に手を回して起こした。そしてそのまま抱き上げると、庭側に面した窓を開け、葵を座らせた。

抱き上げられた葵の振袖が、羽のように揺れ、軽やかに垂れた。今にも飛んでいきそうだ。さらに、何の考えもなく、身体の反応で、仁の首に腕をまわしていた。



「あ、あの、えっと、ごめんなさい。ありがとうございます」



至近距離でぶつかる視線に、恥ずかしさで、俯いてしまった。





「かなり痺れています?」

「は、はい。……」





楓に忠告されていたドジをしてしまった。しまったという表情をする。





「あれだけ長い時間正座をしていたんです。もっと早く気付けばよかったですね。すみません」





葵の隣に腰を下ろした仁は、紳士的に振舞った。口から出る言葉も、嘘や作りがない。仁の人柄を、一瞬で感じ取れた。

見合いの部屋に入った時は、既に座っていたので分からなかったが、葵を抱き上げ、立ち上がった時に視界が随分と高かった。それだけ身長が高いと言うことだ。

しかし、少女のように感激している間はほんの数秒で、足の痺れが葵の全身を包む。動かすこともできない。恐る恐る足の指を触ってみると、





「~~!!」





身体が静止してしまう程のしびれだった。酸っぱい物を口に入れた時のように、顔をギュッとした。





「なぜ、触ったの。余計に痛いでしょう?」

「~~た、確かに……」





笑いもしないが、人柄は穏やかそうだと、葵は感じた。人がいいだけでは結婚は出来ない。やはり、愛情を感じないことには、その先に進む勇気などない。葵に、現時点で結婚の意志はない。容姿端麗で良い会社に勤めている優良株かも知れないが、やはり家の事が気になるし、弟達が無事、大学を卒業するまでは結婚は考えられないからだ。義孝の手前、葵から断りをいれる訳にはいかない。どうか、相手から断ってくれます様にと、心の中では願っていた。