「ん……」
目を覚ますと、辺りは白い光に満たされていた。
慣れない眩しさに目を閉じ、何度か瞬きを繰り返す。
「ああ、ようやっと起きはりましたか」
少し低めで柔らかい女の声。
恐る恐る見上げると、そこには声の印象通りに優しげで凜とした、一人の女が座っていた。
一葉は状況が理解できていないといったふうに女を見つめる。
「ふふ。 あんさん、ウチん近くで倒れとったんどす。 覚えてないやろか」
女はどこからか取り出した手ぬぐいを一葉の額に乗せた。
寝起きでどこかぼんやりとした頭に、ひんやりとした手ぬぐいが気持ちいい。
「熱もあったんやけど、大分下がってきたみたい」
女は言うと、そばに置いてあったらしい盥を両手に抱えた。
ちゃぷ、と小さく音を立て、盥の中で水面が揺らぐ。
「お粥さん作ってきまひょ。 もう少ぅしゆっくりしといておくれやす」
女は自然な動作で立ち上がる。
襖の前まで行くと盥を置き、片手で着物の裾を抑えながら正座をして手にかけた襖をゆっくりと滑らせた。
裾を気にしながら境を超えると一葉にふわりと微笑んでから、失礼しますと三つ指をついて襖を閉めた。
「すごい……」
最初から最後まで丁寧な退室をして見せた女に、一葉は感嘆の声をあげた。
教養があるとこうも違うのかと、そう思わないではいられないほどに、女の動作は滑らかだった。