「総司、お前また稽古さぼりやがって……」


「まあまあ土方さん、落ち着けって」




 総司、基沖田総司はここ、新撰組の一番隊組長を務める男だ。


 そんな沖田の楽しみは、最近見つけた料理茶屋の甘味を食すこと。


 今日も稽古を放って出て行こうとする沖田を、土方は呆れた様子で見つめた。


「お前の甘味好きにはほとほと呆れる」


「いいじゃねえか、好きなもんは好きなんだから。 それに最近はあんまり食ってなかったし」


 手をひらひらと振りながら門を出た沖田は、口をつぐんだ土方を置いて、早速目当ての茶屋へと急ぐ。


 噂によれば、つい最近新しい女が看板娘として働いているという。


 沖田はその娘にも興味があった。


 いつもはゆったりと歩いて行くのだが、今日はどこか足取りが重く、それを振り払うように足を早めた。


 ようやく見えた建物に、何故かほっとして足を緩める。


 最近はあまりいい事がなく、一人になると余計に考え込んでしまうのだ。


 首を振って思考を追いやると、沖田は暖簾の前に立った。


 久しぶりの茶屋。


 中からはすでに食べ物の匂いが漂ってきて、これから頼む甘味を思うと、今まで訴えることを忘れていた胃が急に食べ物を欲しがるようになり始める。


(……よし)


 沖田は意味のわからない気合を入れて一歩踏み出すと、中から何やら話し声が聞こえてきた。