自分に得られるものは何もないと、初めから知っていた。


「一葉……」


「や、やめて……」


 情けなく震える声が真っ暗闇の世界に消えていく。


 スラリと鋭い音とともに姿を現した生身のそれは、何の迷いもなく一葉に向けられていた。


 頼りない足を無理やり動かし、一葉はなんとか男に背を向けた。


「そんな、こと……しなくても……」


 恐怖でなかなか踏み出せない一歩に歯を噛み締める。


 肩口から男を覗き見ると、男は喜々とした表情で手に持つ刀を振り上げているところだった。


「この方が、一番手取り早い」


「いっ、や……っ!」


 無慈悲に振り下ろされた衝撃で一葉の身体は前のめりに突き出された。


 地面に叩きつけられた身体は、意外にも痛みを感じない。


「せいぜいうまくやれ」


 嘲笑う男の足音がざりざりと遠くに離れていく。


 男の後ろ姿を追う目が霞み始めるのを合図に、一葉はゆっくりと目を閉じた。