あたし達が門川へコッソリと戻って、早や数日。


色々あったせいで、あたしはずっと気分の浮き沈みが激しかったけれど。


やっと気持ちも体も、落ち着いてきた。



「天内君、気分転換に散歩でもしないか?」


あたしの状態を見計らったように、門川君がそう誘ってくれた。


麗らかな春の陽射しの中で、彼とふたりで門川邸の中庭を一緒にお散歩。


風が吹くたび、花びらがヒラヒラと音も無く降ってくる。


桜の押し花のような道を踏みしめ、肩を並べてゆっくりと歩いた。


気付けば見上げる枝のほとんどは、花よりも緑色の葉の方が多くなっている。


「今年の桜も見納めだな。散り始めるとあっという間だ」


「うん。まるで男性用カツラのCMみたいだね」


「・・・はかなさという点の表現においては、的確かもしれないな」


あの日、権田原の里から秘密の地下道を通って戻ってきて。


誰にもバレることなく、影武者役を務めていた凍雨君と無事に交代できた。


その時のことを思い出すと寒気がする。


だって凍雨君、かなり危険な状態だったんだもん。


なのに凍雨君たら健気にも


『まだまだ未熟者で、申し訳ありません。ぼく頑張って修行します!』


なんて言っちゃって。


崇拝って一歩間違うと、危険な思想に突っ込みがちだもんね。


周囲が良く諭してあげないとな。


もちろん凍雨君だけじゃなく、ムチャ振りした門川君にも。