絹糸は空を駆けながら浄火に問いかけた。


「さて、どこへ行く?」


「海岸へ向かってくれ。信子ババはそこにいると思う」


浄火の言葉に門川君も同意する。


「そうだな。信子長老の目的から考えると、彼女は海を越えて戻ろうとしているはずだ」


あたし達は向かい風に吹かれながら、先を急いだ。


高所から見下ろす、岩場ばかりがどこまでも続く殺風景な景色。


その果てに、場違いに鮮やかな色彩が見えてくる。


オーロラ色に波打つ、ハッとするほど美しい魔の海。


あたし達が一番初めに到着した、あの海岸だ。


その波打ち際から少し離れた、枯れた植物に覆われた砂地。


そこに、ひとりの女性が海を眺めてポツンと立っている。


黒と見まごうばかりに濃い灰色の着物の裾が、風に吹かれていた。


着物の柄の白い花びら模様が、まるで散ってしまいそうで・・・。


あたし達は彼女の背後に音も無く降り立つ。


でも、気付いていないはずがない。なのに彼女はこちらを振り向かない。


あたし達は海風に吹かれながら、そのまましばらく黙りこくっていた。


やがて・・・


「信子ババ」


背を向けたままの彼女に、浄火が話しかける。


「長が死んだぜ。戌亥を道連れにして」


「・・・そうか」


海を見たまま、たったひと言彼女が答えた。


それ以外はなんの反応も見せず、再びこの場に沈黙が訪れる。


髪が、風に靡いて乱れた。


「あのじーさんも、今頃はもうあの世行きだ。あの色男のおっかねえ兄ちゃんがな」


「・・・そうか」