「なぜ力を欲するのか。お前はおれにそう聞いたな?」


戌亥が、唖然としている浄火に向かって言う。


「逆におれは、お前に問う。・・・なぜ、それが分からない?」


「・・・え?」


「なぜその気持ちが分からないのか、自分で考えたことがあるのか?」


戸惑う浄火に、戌亥は堂々とした態度で語り続ける。


「教えてやろう。それはお前が・・・『持てる者』だからだ」


浄火は怪訝そうに眉を寄せた。


きっと戌亥が何を言っているのか、まるで見当がつかないんだ。


「なにを言ってるんだ? オレにだって神の一族の力は無い・・・」


「ほら、やはりお前は何も分かっていない」


フルフルと戌亥は首を横に振る。


そして、真っ直ぐに浄火を見つめた。


その目はこれまで見たことが無いほど落ち着いて、素直な色をしていた。


「お前は生まれながらにして、おれには無いものを全て持っていた」



意思の強さも、統率力も。


人を惹きつける端整な容貌も、高いカリスマ性も。


いつも気がつけば、お前は人々に囲まれて笑っている。


それはおれがどんなに望んでも、絶対に無いもの。


当たり前の顔をしながら、お前はおれの欲しいものを全部手にしていた。


・・・知らなかったろう? 浄火。


そんなお前を、おれがどんな思いでいつも見つめていたか。