「・・・・・・おい」


やたらと低周波な浄火の声が聞こえて、あたしはハッとした。


ヤ、ヤバイ! 周囲の状況無視して、ふたりの世界を作ってしまっていた!


「メガネ・・・お前、なにやってんだよ」


「天内君のケガの治療だ」


門川君は浄火には目もくれず、あたしをじっと見つめて頬を撫でている。


「オレはそんなこと聞いてねえ。なに人の嫁にベタベタ触ってるんですか? って聞いてんだよ」


「この手合いのケガは、触れて治すのが一番効率的だからだ」


「じゃあその、里緒の頬に触れてる手も治療のためか?」


「いや、これは違う。これは・・・」


門川君の手の平が、あたしの頬を柔らかく包み込んだ。


「これは、僕の望んだ役目だ」


「オレの目の前で図々しいこと言ってんじゃねえよ!」


あまりにも淡々とした門川君の口調に、ついに浄火がキレた。


門川君の手を乱暴に掴んで、ぐぃっと引き離す。


「手を離せ!」


「失敬な。君こそ手を離したまえ」


「里緒はオレの嫁なんだぞ!? 分かってるのか!? 嫁だぞ、オレの嫁っ!」


「分かっている。だが・・・」


門川君は立ち上がり、至近距離で浄火と真っ向から向き合う。


そして自慢げにキッパリ言い切った。


「彼女は、僕の従者だ」


・・・・・・・・・・・・。