「突き落せ! その異形を突き落せ!」
殺気立った声が聞こえてきて、あたしはハッと顔をあげた。
「そうだ! 長様のお許しを得るまでもない!」
「その赤鬼は島の大事な子どもを殺したんだ! 今すぐ処刑しろ!」
赤鬼!? しま子!?
目の前を横切る坂道の先は崖になっていた。
その先端に黒山の人だかりが見える。
みんなひどい興奮状態で、めいめいが叫び合って大騒ぎしている。
あれは島の人たちだ! 良かった間に合ったんだ!
「しま子! しま子ーーー!」
「おい! みんな落ち着け!」
あたしを背負ったまま、浄火が怒鳴りながら皆の方へ向かった。
その声に振り向いた人達が声をあげる。
「おお、浄火! みんな、浄火が来たぞ!」
「浄火見てくれ! 島の子どもが・・・!」
ザッと人垣が割れる。
島の人々の痛ましい視線の奥に、地べたに座り込んで泣き叫ぶ女性がいた。
その女性が、覆い被さるようにして抱きかかえているのは・・・・・・
子ども。
たぶん、まだ十歳にもならないくらいの。
ダランと垂れ落ちた腕を覆う袖は、赤黒く染まっている。
力の抜けた小さな手は、血糊で真っ赤だった。
あの子が・・・・・・?