「お岩さんホラ、しっかりして。立って」


あたしはお岩さんの目の前にツカツカと歩み寄り、腕をグイグイ引っ張り上げる。


「証拠がないなら、探せばいいんでしょ? お岩さんがそう言ったんだよ?」


体から力の抜けたお岩さんが、意味が分からない、といった表情でボンヤリとあたしを見上げた。


絹糸も訝しげに問いかけてくる。



「証拠を探す? 岩と遥峰が兄弟である証拠をか?」


「違うよ何言ってんの! 逆だよ、逆!」


あたしは肩口の絹糸を片手でパシッとつかみ、自分の目の前にグイッと持ってきて叫ぶ。


「お岩さんとセバスチャンさんが、兄弟じゃない証拠を探すの!」



だって確証は無いんでしょ?


それはつまり、ふたりが兄弟じゃない可能性だってあるってことじゃんか。


じゃあもう、探すしかないでしょ。あたしはその可能性に賭ける!



「確率は低いぞ? ほぼゼロに等しい」


「等しいだけで、ゼロじゃないんでしょ?」


「それはそうじゃが、だが、小娘よ・・・」


「確かめもしないで、勝手に答えを決めつけられないよ」



あたしだって、あのおじさんがそんな事する人とは思えない。


じー様や永世おばあ様だって、やっぱりあたしや家族を裏切ってなんかいなかったし。


だから今回の件だって、ただの勘違いかもしれないじゃん。


笑い話にできるかもしれない。


でも、何もしないで黙っていたら、確実に悲劇なままなんだ。


セバスチャンさんとお岩さんの心の奥底に、鋭いトゲが深く突き刺さったまま、一生抜けない。