お金を下ろそうと、駅前の銀行へ向かうと、ガラス越しにキャッシュコーナーに人が大勢並んでいるのが見えた。


今はアルバイトも給料振り込みなんだ。

便利なんだか、不便何なんだか解らないけど……


(結夏と遇ったのも此処だったな……)

そんなことを思いつつ、何となく駅舎を見ていた。


(結夏はきっと誰に付けられているのか知りたくなったのかな? 警察に訴えるためには、きっとそれが重要なのかも知れないと考えていたのかな?)

駅前の交番に逃げ込むことも出来たはずなに……
何故結夏は此処に居たのだろう?


『僕は駅前の銀行の前で結夏に会ったんだ。物凄く慌てていたみたいだったけど、懐かしくて声を掛けたんだ』

孔明と語り合ったあの日。
結夏のストーカー被害に合っていたことを知った。


『結夏は突然、僕にしがみ付いてきたんだ。訳の解らない僕は彼女に押しきられて部屋まで行ったよ。随分積極的になったって感じたけど、そう言うことか』


『結夏はお前のことが大好きだったからな。地獄に仏。いや、それ以上だったのかも知れないな』

孔明の言葉を俺は聞き流していた。
確かに僕のことを大好きだったって孔明は言っていた。


でも……
本当は、孔明は結夏を好きだったはずなんだ。

だから何時も結夏を心配していたんだ。


『もしかしたら、結夏のお腹にいた子供の父親はお前か?』

孔明はどんな思いで言ったのだろう。

狭い軋むソファーベッドの上で互いの肌を求めたあの日。

僕は罪人になってしまったのかも知れない。




 もしかしたら結夏は駅の階段を下りる途中で僕を見つけたのかな?

そう言えば『隼の後ろ姿はすぐ解る』って言っていたな。

だからつい後を追い掛けたのだろうか?


教室で結夏の席は僕の後ろだったんだ。
だからそんな言ったのかな?


それと髪型かな?
今時流行らないから、自分と同じソフトモヒカンにでもしろって孔明には言われていたけど……




 僕は中学時代からスーパー銭湯の中の床屋に通っていた。
サッサッと出来るし、何しろ安いんだ。
それにお風呂に入らなくても切ってくれる。

その代わり、不正防止のために手首に紙を巻かれるけどね。

湯船に浸からない前提で入館したのにかかわらず、もし濡れていれば一目瞭然だからだ。


ロッカーは無料だけど、散髪だけの人は使えない。


荷物は受け付けに預けもいいことになっているんだ。