九月二十六日 午前四時三十八分、まだ薄暗い街を一人の男が走り抜ける。それはまるで寝坊した中学生が学校に向かって急いでいる感じだ。
「はぁ、はぁ…す、すいません!」早田真琴(そうだ まこと)。心理学者で大学の非常勤として働いている。
「早田~相変わらず足が早いねぇ」嫌味混じりに笑いながら一人の警察官が声をかける。
彼は吉原達也(よしはら たつや)。捜査一課の刑事で早田とは、保育園からの幼馴染みだ。
「ほれ、あれが仏だ。」一瞬に緊張が走る。その死体はまるで安らかに眠っているようにも見える。早田はゆっくりと死体の衣服をめくった。
「また…このマークだ。」死体の背中、右肩部分に三角形を逆さにしたようなマークがある。
「な、そのマーク何なんだ?」
「わからない。何かの象徴か…それとも。」早田はブツブツと喋りながら死体の周りを調べ始めた。
被害者は二十代の大学生。早朝、新聞配達員が配達途中に発見し通報した。死体に目立った外傷はなく、突然の心臓発作ということで不審死として処理されてしまう事案だ。ただ一つだけ違うことは、右肩の不可思議なマークだ。
早田は数週間前にある事件現場に遭遇し、死体の第一発見者となった。その時に出会ったのがこの不可思議なマークだ。このマークは必ず死体の右肩後方に付いており、何の意味があるかは不明。今日で同じマークの被害者が出たのは三人目である。
「なぁ早田。興味津々なとこ悪いんだが…あれ。」と不意に吉原が指をさした。
突然サイレンが鳴り響く。
「お時間ですね。」