「朝飯でも食いに行くか」

という八木沢主任の誘いに、素直に頷く。まだ頭は少し疼くけれど、空腹はそれを助長してしまう。

なんて、それは私の勝手な言い分で。

八木沢主任に抱かれているこの状態が心地いいのは間違いないけれど、それももうそろそろ限界が近づいてきていて。トイレに行きたいという自然現象も発生して、身体がもじもじしてしまう。

「八木沢主任? 着替えをしたいので、ひとりにしていただけないでしょうか?」

ふたりでいることに慣れてはきているものの、彼女になったとはいえまだ下着姿を見られるのは恥ずかしい。

「俺なら構わないぞ」という八木沢主任を睨みつけると、私の頭をポンポンと撫でてから部屋を出て行った。

大急ぎで服を着ると鞄に手を伸ばし、中からスマホと化粧ポーチを取り出す。

「やっぱり……」

スマホの画面を見れば、井澤のおばちゃんから何度か電話が掛かってきていた。

井澤のおばちゃんとは私が今住んでいるアパートの大家さんで、こちらの暮らしでの保護者的存在。友達もほとんどいない、男っ気もない私のことを何かと気にかけてくれる優しいおばちゃんだ。

井澤のおばちゃんはアパートの隣に住んでいて、仕事帰りは必ず声をかけていた。そんな私が無断外泊したもんだから、きっと心配して電話を掛けてきたに違いない。