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「ふう、このくらいでいいかな?
ねえノア」



『いいんじゃないか』



 その返事を聞いて嬉しそうにルミは空を仰いだ。





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 ちょうど今から三か月前。



 ルミが目を覚ましたのは自分のベッドの上だった。
 ベッドのわきにはオーリングが眠っている。



 どうしてだろう。
 ついさっきまで自分は別の場所にいたような気がするのだ。そして、瞬く間に昨日の記憶が鮮明に蘇る。



 同時に頭の中を支配するのは、死にかけの少年、シェイラ。



 彼は今どうしているのだろう。



(会いたい...)



 会わないといけない、何故かそう思った。



「...うーん...あれ?起きたの、ルミちゃん」



 ルミが混乱しているうちにオーリングが目を覚ます。



「どうかした?」



 いつもと違う様子に不思議に思ったのだろうか。オーリングが顔を覗き込みながら心配そうに尋ねてくる。



 ルミは自分の混乱している理由を、包み隠さずに言った。



 エンマの事も、影の部屋のことも、その部屋にいたシェイラと言う名の少年の事も。



 だけど、オーリングの口から出たのはそれを否定する言葉。



「...ルミちゃん、よく聞いて
それはきっと夢だよ。この王宮には影の部屋なんてものはないし、エンマなんて言う生き物も存在しない。シェイラと言う人も...居ないよ、この国には」



 疲れてるんだよ、よく休んだ方がいい。



 そう言って微笑みながら、オーリングはルミの頭を撫でる。



 どうしても納得出来なかったけど、その時の私は、とてもじゃないけど、彼の言葉に否定をすることも出来ない。この国のことを全く知らないから。



 おまけに、魔法は存在するし、空想上の生物まで存在する、ルミにとっては不確かな世界だ。



 全てのことが信じられない。



 有り得るようにも思えるし、有り得ないとも感じられる。



 だから、その時の私には、彼の言葉を受け容れることしかできなかった。





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