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「............ふぅ」





 病室の窓から入る、爽やかな心地よい風に乗せて、彼女は小さく息を吐く。



 ルミが目覚めて、一週間。


 
 初日に、シルベスター国王がやって来てからというもの、王妃様を始め様々な人が病室へとやってきた。



 純粋に命を守ったことに関して感謝や賛辞だけであれば、なんてことはなかったのだが、ルミは知らず知らずにとんでもないことをやっていたようなのだ。



 衛兵たちが気付くよりも早く敵に気づき、命の危険を顧みず身を盾にして守ったその行為。ルミの記憶は、何故かその当たりまでしかなかった。



 だが、どうしてだろうか。ルミは魔法を使いその後も王達を魔の手から守り、尚且つその敵を、同じく魔法で捉えていたというのだ。その信じられぬ程迅速、かつ適切な行動は、この国を守る衛兵たちにとって、体に衝撃が走る程のものだったらしく、是非とも御教示願いたいと、衛兵達が頭を下げに来る始末。



 その事に、ルミは吃驚仰天。



 それだけには留まらない。
 どうやら、王達を庇って受けたあの銃弾にはとても恐ろしい魔法がかけられていたようで、本当であればその銃弾を身に受けて数秒で死んでいたというのだ。



 だが、ルミは数秒と言わず、その後も王を最善の手で守り続け、挙句生き延びている。この事実が信じられないと、研究者や医師達がやって来たと言う訳だ。



 まだある。そう、一角獣ノアだ。



 存在は知られているものの、それを実際に目にすることは奇跡と唱われるユニコーン。それがあの事件の際、ルミと共に現れたものだから、噂に様々な尾ひれがつき『神様が現れた』『ユニコーンと共に天使様が降りてこられた』と、町中が大パニックなのだそうだ。



 無理もないだろう。
 神聖視される程に美しく、その上人々の思い描く通りの靭やかな純白の体と猛々しい立派な一角を持つユニコーンが目の前にいて、その隣には同様の純白の髪のそれはそれは麗しい少女が佇んでいる。
 その光景に、そのような噂を立てたくなっても仕方が無い。



 ルミからしたら、どうしてそんな噂がたっているかなど訳もわかっていないのだが。



 また、銃弾を背に受け倒れた後にノアが駆け寄り怪我の治療をしたらしい。
 ユニコーンの生態はまだまだ謎が多く、その事実に学者達は大興奮。ユニコーンを見せてくれ、調べさせてくれと連日連夜やって来ている状況。



 結果、衛兵や研究者、医師、学者、噂を聞きつけ一目ルミが見たいとやってくる一般市民



 本当に様々な人達が、それぞれの理由でルミに面会を希望してきたのだ。



 それの数は、たった三日で何百にまで及んでしまい、怒ったオーリングが面会謝絶にしたことでやっと今、ルミはゆっくりと一息つくことができていると、そういう訳なのである。








 ふと、窓の外を除くと庭が広がっている。綺麗に整備されているようにも見えるが、よく見るとそうでもないようだ。背丈が微妙に揃っていない植木や、枯れているのにほったらかしのバラ。
 しかし、なぜだかそれらは生き生きとしていて手入れがされていないようには見えない。



 何とも不思議な、バランスの悪い庭である。



 そんな風景を見ながらルミの頭の中に、この一週間考えていたことが、ふと過ぎる。



 どうして



(どうして......私は、魔法が使えたんだろう)



 大体、本当にその魔法は私が使ったものなのか。別の人間がやったことが、たまたまルミが近くにいたからって、ルミの仕業というふうになったのではないか。



 ルミには、魔法を使ったという記憶自体がない。無意識のうちの行動程信じられないものはないと思うのだが。



 漸く、しびれが取れて動かせるようになってきた手を軽く動かしながら、その動きを見つめる。



 そして想像してみた。魔法使いを。